★ 本記事のテーマ
- ① 一般的な倫理的行動とは何か
- ② ISOにおける倫理的行動(ISO26000・ISO10010・ISO37301)
- ③ 品質管理で倫理的行動が必要になった背景
- ④ ISO9001:2026年版で倫理的行動はどう扱われるのか
- ⑤ 組織は倫理的行動をしているが、それだけでは不十分(現状のギャップ)
- ⑥ QMSで倫理的行動を評価する方法と監査で問われるポイント(定性・定量表付き)
- まとめ
① 一般的な倫理的行動とは何か
倫理的行動とは、社会や組織が期待する価値観・規範に沿って、誠実で公正な判断と行動を取ることを指します。
単なる「法律を守る」だけではなく、利害関係者への配慮、透明性のある意思決定、説明責任、誠実さなど、より広い価値観を含む概念です。
倫理的行動は、個人の内面の価値観だけでなく、組織の文化や仕組みによっても大きく左右されます。
(1) 倫理的行動の具体例
倫理的行動の具体例を挙げます。
- 嘘や隠蔽をしない
- 利害関係者に不利益を与える行為を避ける
- 不正を見つけたら報告する
- 公平な判断を行う
- 顧客や社会に対して誠実に説明する
- 自分の利益より組織や社会の利益を優先する
これらは一般的な倫理の例ですが、品質管理の世界では「品質に関する情報を正しく伝える」「不適合を隠さない」「データを改ざんしない」など、より具体的な行動が求められます。
(2) 倫理的行動に必要なこと
倫理的行動は、個人の善意だけでは成立しません。 必要な要素は以下の3つです。
- 価値観(Value)
誠実、公正、透明性などの価値観が共有されていること - 判断力(Judgment)
複雑な状況でも倫理的に正しい判断ができる力 - 仕組み(System)
倫理的行動を支える制度、教育、相談窓口、内部通報など
(3) 一般的な倫理と品質管理における倫理の違い(比較表)
「一般的な倫理」と「品質管理における倫理」の違いを比較しましょう。
| 観点 | 一般的な 倫理的行動 |
品質管理における 倫理的行動 |
| 目的 | 社会的に正しい行動 | 品質の信頼性・ 安全性の確保 |
| 主体 | 個人・組織 | 組織全体(QMS) |
| 行動例 | 嘘をつかない、 公正な判断 |
不適合を隠さない、 データ改ざんをしない |
| 評価方法 | 行動規範の遵守 | 品質リスク・ 不正件数・再発防止 |
| 必要な仕組み | 倫理教育、相談窓口 | 品質文化、 内部監査、是正措置 |
② ISOにおける倫理的行動(ISO26000・ISO10010・ISO37301)
ISOは国際標準化機構であり、世界中の組織が共通の価値観で運営できるように規格を定めています。倫理的行動はISOの複数の規格で扱われており、特に以下の3つが重要です。
(1) ISO26000(社会的責任)
ISO26000は「倫理的行動」を最も明確に定義している規格です。 その中心となる価値は以下の通りです。
- 誠実性(Integrity)
- 公正性(Fairness)
- 透明性(Transparency)
- 説明責任(Accountability)
- 利害関係者への配慮
- 法令遵守+社会的期待への対応
- 汚職・腐敗の防止
ISO9001では明確な定義がありませんが、ISO26000の価値観が「倫理的行動」の基礎として活用できます。
(2) ISO10010(品質文化)
ISO10010は品質文化を扱うガイドラインであり、2026年版ISO9001で正式に要求事項として統合される見込みです。 品質文化の中心には「倫理的行動」が位置づけられています。
- 不正を許さない文化
- 誠実な品質情報の共有
- 心理的安全性
- 品質に関する透明性
- 組織の価値観の明確化
品質文化が弱い組織では、不正や隠蔽が起こりやすくなります。
(3) ISO37301(コンプライアンス)
ISO37301はコンプライアンスマネジメントシステムの規格です。 倫理的行動を制度として支える仕組みが求められます。
- 内部通報制度
- 不正防止の仕組み
- コンプライアンス教育
- リスク評価
- 是正措置の仕組み
ISO9001の「倫理的行動」は、ISO37301の仕組みと密接に関連します。
③ 品質管理で倫理的行動が必要になった背景
品質管理の世界で倫理的行動が強く求められるようになった背景には、社会的な変化と企業の構造変化があります。
(1) 品質不正の事例
近年、日本でも世界でも品質不正が相次ぎました。 データ改ざん、検査不正、隠蔽など、倫理的行動の欠如が原因となる事例が多く、企業の信頼を大きく損なっています。
(2) コンプライアンス遵守の社会
社会全体が「コンプライアンス重視」に移行し、企業の倫理的行動が強く求められるようになりました。 SNSの普及により、不正はすぐに拡散し、企業のブランド価値を一瞬で失う時代です。
(3) グローバル化・複雑化したサプライチェーン
- 多国籍企業化、委託・再委託の増加
- 品質責任の所在が曖昧になりやすい
- 倫理的行動が弱いと「見えないリスク」が増大する
- リスク評価
- 是正措置の仕組み
複雑なサプライチェーンでは、倫理的行動が弱い部分があると、品質リスクが連鎖的に広がります。 そのため、ISO9001は「倫理的行動」を品質文化の中心に据える方向へ進化しています。

④ ISO9001:2026年版で倫理的行動はどう扱われるのか
2026年版では、倫理的行動が明確に要求事項として扱われる方向で議論が進んでいます。
(1) 品質文化(ISO10010)との統合的要求
品質文化が正式に要求事項となり、その中心に倫理的行動が位置づけられます。
- 組織の価値観・行動規範の明確化
- 品質情報の透明性
- 不正を許さない文化の醸成
- 心理的安全性の確保
品質文化が弱い組織では、品質不正が起こりやすく、ISO9001の要求事項を満たせません。
(2) 組織のガバナンス・リーダーシップにおける倫理
トップマネジメントの責任として、倫理的行動の促進が明記されます。
- 意思決定の透明性
- 説明責任
- 不正を許さない文化の醸成
- 心理的安全性の確保
リーダーが倫理的行動を示さない組織では、文化は根付きません。
(3) プロセスアプローチ・リスクベース思考との関連
倫理的行動の欠如は重大な品質リスクです。
- リスク評価に「倫理リスク」を含める
- 不正が起こりやすいプロセスを特定する
- 倫理的行動がプロセスの安定性を高める
ISO9001の「リスクベース思考」は、倫理的行動と密接に結びつきます。
⑤ 組織は倫理的行動をしているが、それだけでは不十分(現状のギャップ)
多くの組織は倫理的行動を行っていますが、ISO9001:2026年版が求めるレベルには達していないことが多いです。
(1) 現状の組織の倫理的行動
- 行動規範の策定
- コンプライアンス教育
- 内部通報制度
- 不正防止の仕組み
これらは最低限の取り組みですが、品質文化として根付いているとは限りません。
(2) ISO9001:2026年版で求められる倫理的行動
- 品質文化としての倫理
- 心理的安全性の確保
- 不正を許さない組織風土
- 品質情報の透明性
- 倫理リスクの管理
- リーダーの倫理的行動の模範
単なる制度ではなく、文化として根付いていることが求められます。
(3) 私たちができること、やるべきこと
- 不適合を隠さない
- データを正しく扱う
- 不正を見つけたら報告する
- 誠実なコミュニケーション
- 品質に関する情報を正しく共有する
個人の行動が文化を作ります。
⑥ QMSで倫理的行動を評価する方法と監査で問われるポイント(定性・定量表付き)
ISO9001:2026年版では、倫理的行動を「評価できる形」にすることが求められます。
(1) 倫理的行動の定性評価(行動規範・文化・風土)
| 評価観点 | 内容 | 評価例 |
| 行動指針 | 組織の価値観が明確か | A:明確、 B:一部不明確 |
| 心理的安全性 | 不正を報告できる雰囲気か | A:高い、 B:低い |
| 文化の成熟度 | 不正を許さない文化があるか | A:成熟、 B:未成熟 |
| 相談窓口 | 相談しやすい仕組みがあるか | A:整備済、 B:未整備 |
(2) 倫理的行動の定量評価(指標・KPI)
| 指標 | 内容 | 例 |
| 不正件数 | 不正の発生数 | 年間0〜5件 |
| 内部通報件数 | 通報の活発度 | 年間10件など |
| 教育受講率 | 倫理教育の浸透度 | 95%以上 |
| 再発率 | 是正措置の有効性 | 0%が理想 |
| 顧客苦情 | 品質の信頼性 | 減少傾向が望ましい |
(3) 監査で問われるポイント(内部監査・外部審査)
- 倫理的行動がプロセスにどう組み込まれているか
- トップマネジメントの倫理的リーダーシップ
- 倫理リスクの識別と管理
- 不正発生時の是正措置の妥当性
- 品質文化として根付いている証拠(教育、記録、行動)
監査では「制度があるか」ではなく「文化として機能しているか」が問われます。
品質文化とあわせて理解することで、組織のQMSにより実効性のある形で反映できるようになります。
ぜひ、今回の内容を自組織の仕組みづくりや運用改善に役立てていただければ幸いです。
まとめ
「ISO9001:2026年版の「倫理的行動」がよくわかる」、を解説しました。
- ① 一般的な倫理的行動とは何か
- ② ISOにおける倫理的行動(ISO26000・ISO10010・ISO37301)
- ③ 品質管理で倫理的行動が必要になった背景
- ④ ISO9001:2026年版で倫理的行動はどう扱われるのか
- ⑤ 組織は倫理的行動をしているが、それだけでは不十分(現状のギャップ)
- ⑥ QMSで倫理的行動を評価する方法と監査で問われるポイント(定性・定量表付き)
- まとめ
