実験計画法のプーリングがわかる
「プーリングの判断基準は何?」や「プーリングしても残差eの分散期待値E[V]が\(σ_e^2\)のまま変わらないのはなぜ?」と疑問に思いませんか?
こういう疑問に答えます。
本記事のテーマ
実験計画法のプーリングがわかる
- ➀プーリングの判断基準はよく考えるべき
- ②プーリングしても残差eの分散期待値が変化しない理由がわかる
記事の信頼性
記事を書いている私は、実験計画法に磨きをかけていますので、わかりやすく解説します。本記事は、どこに書いていない、私が研究して見つけた本記事限定の内容です。
実験計画法の肝なので、必読です!
➀プーリングの判断基準はよく考えるべき
効果の大小でプーリングを判断することが多い
3因子(Aが4水準、Bが5水準、Cが3水準の計60個)から構成される三元配置実験の分散分析をまとめます。
– | S | φ | V | F |
A | 24 | 3 | 8 | 4 |
B | 16 | 4 | 4 | 2 |
C | 10 | 2 | 5 | 2.5 |
A×B | 3 | 12 | 0.25 | 0.125 |
A×C | 24 | 6 | 4 | 2 |
B×C | 2 | 8 | 0.25 | 0.125 |
e | 48 | 24 | 2 | – |
T | 127 | 59 | – | – |
教科書どおりだと、F値の小さいものは無視できるので、交互作用A×B、B×Cを残差eへプーリングしますね。
– | S | φ | V | F |
A | 24 | 3 | 8 | 6.64 |
B | 16 | 4 | 4 | 3.32 |
C | 10 | 2 | 5 | 4.15 |
A×C | 24 | 6 | 4 | 3.32 |
e | 53 | 44 | 1.2 | – |
T | 127 | 59 | – | – |
プーリングして効果を消してよいかよく考えること
プーリングはよく試験に出るので、練習しておくことは大事ですが、単にF値の大小で残差eに含めるかどうかはよく考えるべきです。
プーリングすべきかどうかは、その効果の意味をよく考えることが大事です。
調べたい効果が小さければ、影響が無いという知見が得られます。それを残差に入れて、無かったことにするのはもったいないです。
私は、F値に関係なく、一旦は全効果の平方和を調べることをおすすめします。
その理由は、各効果の関係を分散の大小から理解して、自分がやりたい実験が適正に計画できているかをチェックすることができるからです。
全体を俯瞰する意味で、全効果の平方和を調べた方がよいです。エクセルで簡単に計算できますから。,
まとめると、
でも実務は全効果を一旦見た方がよい!
②プーリングしても残差eの分散期待値が変化しない理由がわかる
口で説明するのは簡単
理由は口で言うと簡単です。
大正解です!
でも、数式で説明できますか?
口で言うのは簡単だけど、本当にも残差eの分散の期待値は変化しないのでしょうか?と言い寄られると、ちょっと不安になりますよね。
事例1(三元配置実験でプーリングする前)
プーリングする前の各効果を式で表現すると下表のようになります。
A | B | C | AB | AC | BC | e | T | |
\(\bar{x_{i・・}}\) | 1 | -1 | -1 | 1 | 0 | |||
\(\bar{x_{j}}\) | 1 | -1 | -1 | 1 | 0 | |||
\(\bar{x_{k}}\) | 1 | -1 | -1 | 1 | 0 | |||
\(\bar{x_{ij}}\) | 1 | -1 | 0 | |||||
\(\bar{x_{ik}}\) | 1 | -1 | 0 | |||||
\(\bar{x_{jk}}\) | 1 | -1 | 0 | |||||
\(x_{ijk}\) | 1 | 1 | ||||||
\(\bar{\bar{x}}\) | -1 | -1 | -1 | 1 | 1 | 1 | -1 | -1 |
黄色枠を見て、残差eの平方和の期待値が導出できます。
E[\(S_e\)]=E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}\)
\((x_{ijk}-\bar{x_{ij・}}-\bar{x_{i・k}}-\bar{x_{・jk}}\)
\(+\bar{x_{i・・}}+\bar{x_{・j・}}+\bar{x_{・・k}}-\bar{\bar{x}})^2\)
=E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}\)
\((ε_{ijk}-\bar{ε_{ij・}}-\bar{ε_{i・k}}-\bar{ε_{・jk}}\)
\(+\bar{ε_{i・・}}+\bar{ε_{・j・}}+\bar{ε_{・・k}}-\bar{\bar{ε}})^2\)
=(a-1)(b-1)(c-1)\(σ_e^2\)
となるのですが、簡単に導出方法を書いておきます。
\((ε_{ijk}-\bar{ε_{ij・}}-\bar{ε_{i・k}}-\bar{ε_{・jk}}\)
\(+\bar{ε_{i・・}}+\bar{ε_{・j・}}-\bar{ε_{・・k}}-\bar{\bar{ε}})^2\)
を(A)とします。
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(ε_{ijk}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (abc-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}((A))^2\)] | → | (??)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{ε_{ij・}}-\bar{ε_{i・・}}-\bar{ε_{・j・}}+\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (a-1)(b-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{ε_{i・k}}-\bar{ε_{i・・}}-\bar{ε_{・・k}}+\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (a-1)(c-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{ε_{・jk}}-\bar{ε_{・j・}}-\bar{ε_{・・k}}+\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (b-1)(c-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{i・・}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (a-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{・j・}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (b-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{・・k}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (c-1)\(σ_e^2\) |
よって、(A)は
(abc-1)-(a-1)(b-1)-(a-1)(c-1)-(b-1)(c-1)
-(a-1)-(b-1)-(c-1)
=abc-ab-ab-bc+a+b+c-1
=(a-1)(b-1)(c-1)
E[\(S_e\)]=(a-1)(b-1)(c-1)\(σ_e^2\)
となります。
データの構造式で、全効果を展開すると、添え字が
そのまま自由度になります。
添え字:(ijk-ij-jk-ik+i+j+k-1)
→自由度:(abc-ab-ac-bc+a+b+c-1)
よって、分散の期待値は、自由度で割ります。
残差eの自由度は(a-1)(b-1)(c-1)なので、
E[\(V_e\)]=\(σ_e^2\)
とシンプルになります。
事例2(三元配置実験でプーリングする場合1)
交互作用A×Bをプーリングします。
交互作用A×Bをプーリングした後の各効果を式で表現すると下表のようになります。
A | B | C | (AB) | AC | BC | e | T | |
\(\bar{x_{i・・}}\) | 1 | 0 | 0 | eへ | -1 | 0 | 0 | 0 |
\(\bar{x_{j}}\) | 0 | 1 | 0 | eへ | 0 | -1 | 0 | 0 |
\(\bar{x_{k}}\) | 0 | 0 | 1 | eへ | -1 | -1 | 1 | 0 |
\(\bar{x_{ij}}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 0 | 0 | 0 | 0 |
\(\bar{x_{ik}}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 1 | 0 | -1 | 0 |
\(\bar{x_{jk}}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 0 | 1 | -1 | 0 |
\(x_{ijk}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 0 | 0 | 1 | 1 |
\(\bar{\bar{x}}\) | -1 | -1 | -1 | eへ | 1 | 1 | 0 | -1 |
残差eの項が少し変わりました。
黄色枠を見て、残差eの平方和の期待値が導出できます。
E[\(S_e\)]=E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}\)
\((x_{ijk}-\bar{x_{i・k}}-\bar{x_{・jk}}\)
\(+\bar{x_{・・k}})^2\)
=E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}\)
\((ε_{ijk}-\bar{ε_{i・k}}-\bar{ε_{・jk}}\)
\(+\bar{ε_{・・k}})^2\)
=(a-1)(b-1)(c-2)\(σ_e^2\)
となるのですが、簡単に導出方法を書いておきます。
\((ε_{ijk}-\bar{ε_{ i・k }}-\bar{ε_{・jk }}+\bar{ε_{・・k}})^2\)
を(B)とします。
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(ε_{ijk}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (abc-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}((B))^2\)] | → | (??)\(σ_e^2\) |
– | – | – |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{ε_{i・k}}-\bar{ε_{i・・}}-\bar{ε_{・・k}}+\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (a-1)(c-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{ε_{・jk}}-\bar{ε_{・j・}}-\bar{ε_{・・k}}+\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (b-1)(c-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{i・・}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (a-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{・j・}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (b-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{・・k}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (c-1)\(σ_e^2\) |
よって、(B)は
(abc-1)-(a-1)(b-1)-(a-1)(c-1)-(b-1)(c-1)
-(a-1)-(b-1)-(c-1)
=(a-1)(b-1)(c-1)-(a-1)(b-1)
=(a-1)(b-1)(c-2)
E[\(S_e\)]=(a-1)(b-1)(c-2)\(σ_e^2\)
となります。
(A)の自由度からプーリングした交互作用A×Bの自由度(a-1)(b-1)を引けばOKです。
よって、分散の期待値は、自由度で割ります。
残差eの自由度は(a-1)(b-1)(c-2)なので、
E[\(V_e\)]=\(σ_e^2\)
とプーリングする前の期待値と等しくなります。
事例2(三元配置実験でプーリングする場合2)
さらに交互作用A×B、B×Cをプーリングします。
交互作用A×B、B×Cをプーリングした後の各効果を式で表現すると下表のようになります。
A | B | C | (AB) | AC | (BC) | e | T | |
\(\bar{x_{i・・}}\) | 1 | 0 | 0 | eへ | -1 | eへ | 0 | 0 |
\(\bar{x_{j}}\) | 0 | 1 | 0 | eへ | 0 | eへ | -1 | 0 |
\(\bar{x_{k}}\) | 0 | 0 | 1 | eへ | -1 | eへ | 0 | 0 |
\(\bar{x_{ij}}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 0 | eへ | 0 | 0 |
\(\bar{x_{ik}}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 1 | eへ | -1 | 0 |
\(\bar{x_{jk}}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 0 | eへ | 0 | 0 |
\(x_{ijk}\) | 0 | 0 | 0 | eへ | 0 | eへ | 1 | 1 |
\(\bar{\bar{x}}\) | -1 | -1 | -1 | eへ | 1 | eへ | 0 | -1 |
さらに残差eの項が変わりました。
黄色枠を見て、残差eの平方和の期待値が導出できます。
E[\(S_e\)]=E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}\)
\((x_{ijk}-\bar{x_{i・k}}-\bar{x_{・j・}})^2\)
=E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}\)
\((ε_{ijk}-\bar{ε_{i・k}}-\bar{ε_{・j・}}\)
=(b-1)(ac-2a-2c+3)\(σ_e^2\)
となるのですが、簡単に導出方法を書いておきます。
\((ε_{ijk}-\bar{ε_{ i・k }}-\bar{ε_{・j・}})^2\)
を(C)とします。
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(ε_{ijk}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (abc-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}((B))^2\)] | → | (??)\(σ_e^2\) |
– | – | – |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{ε_{i・k}}-\bar{ε_{i・・}}-\bar{ε_{・・k}}+\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (a-1)(c-1)\(σ_e^2\) |
– | – | – |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{i・・}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (a-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{・j・}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (b-1)\(σ_e^2\) |
E[\(\sum_{i=1}^{a}\sum_{j=1}^{b}\sum_{k=1}^{c}(\bar{x_{・・k}}-\bar{\bar{ε}})^2\)] | → | (c-1)\(σ_e^2\) |
よって、(C)は
(abc-1)-(a-1)(b-1)-(a-1)(c-1)-(b-1)(c-1)
-(a-1)-(b-1)-(c-1)
=(a-1)(b-1)(c-1)-(a-1)(b-1)-(b-1)(c-1)
=(b-1)(ac-2a-2c+3)
E[\(S_e\)]=(b-1)(ac-2a-2c+3)\(σ_e^2\)
となります。
(A)の自由度からプーリングした交互作用A×B,B×Cの自由度(a-1)(b-1)と(b-1)(c-1)を引けばOKです。
よって、分散の期待値は、自由度で割ります。
残差eの自由度は(b-1)(ac-2a-2c+3)なので、
E[\(V_e\)]=\(σ_e^2\)
とプーリングする前の期待値と等しくなります。
プーリングすると自由度も下がるので、残差eの分散の期待値は変わりません。実際に式を使って期待値が変わらないことを確認しました。
まとめ
実験計画法のプーリングについて詳細に解説しました。
- ➀プーリングの判断基準はよく考えるべき
- ②プーリングしても残差eの分散期待値が変化しない理由がわかる
Warning: count(): Parameter must be an array or an object that implements Countable in /home/qcplanets/qcplanets.com/public_html/wp-content/themes/m_theme/sns.php on line 119