並列系のアベイラビリティがよくわかる
「並列系のアベイラビリティがよくわからない」と困っていませんか?
こういう疑問に答えます。
本記事のテーマ
- ①アベイラビリティ
- ➁並列系のアベイラビリティA(t)を導出する例題
- ➂定常状態の並列系のアベイラビリティAを導出
- ➃並列系のアベイラビリティA(t)を計算
- ➄並列系のメリットをアベイラビリティから考える
①アベイラビリティとは
アベイラビリティとは
信頼度を高めるには、
「故障しないこと」以外に、
「修理が短時間で終わること」も重要ですね。
動作状態(アップタイムU)と休止状態(ダウンタイムD)の比を取ったものが
「アベイラビリティ」です。
アベイラビリティは公式暗記で済ませるな!
結局、
になりますが、暗記より導出が大事!
それと、
A(t⇒∞)=\(\frac{MTBF}{MTBF+MTTR}\)
ばかり試験や教科書しか出ないので、みんなこれを丸暗記して簡単と思ってしまう!
ちゃんとモデル式を立ててからアベイラビリティA(t)を導出しましょう。
アベイラビリティを公式暗記するリスク
単純な系なら、
A=\(\frac{MTBF}{MTBF+MTTR}\)
でいいのですが、並列系、直列系と応用になると、式が複雑化し、式が理解できなくなります。
アベイラビリティの基本は、関連記事で解説しています。ご確認ください。
【必読】アベイラビリティがよくわかる QCでよく出るアベイラビリティを公式暗記だけで終わっていませんか?本記事では、アベイラビリティの定義や導出を丁寧に解説! 信頼性工学を学ぶ人は必読です。 |
➁並列系のアベイラビリティA(t)を導出する例題
本記事では、次の例題を使って、並列系のアベイラビリティを解説します。
- 並列系のアベイラビリティA(t)をきちっと解く
- 並列系のアベイラビリティがいくらになるかを解く
- 並列系のメリットをアベイラビリティから理解する
なお、わかりやすくするため、指数分布について解説します。
並列系のアベイラビリティを考える例題
下図のシャント線図で、各状態を定義する。
●\(S_0\):故障しない(故障数0)の場合、またその確率を\(P_0\)とする。
●\(S_1\):故障が1個(故障数1)の場合、またその確率を\(P_1\)とする。
●\(S_2\):すべて故障する(故障数2)の場合、またその確率を\(P_2\)とする。
当然、\(P_0+P_1+P_2=1\)である。
さらに、故障率\(λ_i\)、修理率\(μ_i\)を下図のシャント線図のように定義する。
(1) 連立微分方程式を作れ
(2) 定常状態(t⇒∞)における、各状態の確率\(P_i\)とアベイラビリティ\(A\)を計算せよ。
(3) 初期条件を\(P_0(0)=1\),\(P_1(0)=P_2(0)=0\)とし、\(λ_i\)=\(μ_i\)=\(λ\)として、各状態の確率\(P_i(t)\)とアベイラビリティ\(A(t)\)を計算せよ。
(4) (3)の結果をt⇒∞にしたときの各状態の確率\(P_i(t)\)とアベイラビリティ\(A(t)\)を計算せよ。
(5) 並列系にするメリットは何か?アベイラビリティの値から考えよ。
各問は以下でそれぞれ解説します。
- ①アベイラビリティ
- ➁並列系のアベイラビリティA(t)を導出する例題
⇒(1)を解説 - ➂定常状態の並列系のアベイラビリティAを導出
⇒(2)を解説 - ➃並列系のアベイラビリティA(t)を計算
⇒(3)を解説 - ➄並列系のメリットをアベイラビリティから考える
⇒(4)(5)を解説
信頼性工学は以下の3点の流れで解いていきます。QCプラネッツの全記事共通です。
- シャント線図、微分方程式の導出
- ラプラス変換の基本
- MTTF,MTBF,MTTRの導出方法
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連立微分方程式を作る
シャント線図を見ながら、微分方程式を作ります。
●微分方程式は下のようになります。
\(\displaystyle \frac{dP_0(t)}{dt} \)=―\(λ_0 P_0(t)\)+\(μ_0 P_1(t)\)
\(\displaystyle \frac{dP_1(t)}{dt} \)=\(λ_0 P_0(t)\) ―\((λ_1+ μ_0)P_1(t)\)+\(μ_1 P_2(t)\)
\(\displaystyle \frac{dP_2(t)}{dt} \)=\(λ_1 P_1(t)\) ―\(μ_1 P_2(t)\)
初期条件は決まっている
\(P_0 (0)=1\),\(P_1 (0)=0\),\(P_2 (0)=0\)です。
では、微分方程式をラプラス変換して解いてみましょう。
➂定常状態の並列系のアベイラビリティAを導出
定常状態とは、t⇒∞で、確率の変化が0の場合です。つまり、(1)の微分方程式でいうと
\(\displaystyle \frac{dP_i(t)}{dt} \)=0 (\(i\)=0,1,2)です。
よって計算できます。
0=―\(λ_0 P_0\)+\(μ_0 P_1\)
0=\(λ_0 P_0\) ―\((λ_1+ μ_0)P_1\)+\(μ_1 P_2\)
0=\(λ_1 P_1\) ―\(μ_1 P_2\)
\(P_0+P_1+P_2=1\)
解くと、
●\(P_1\)=\(\frac{λ_0}{μ_0} P_0\)
●\(P_2\)=\(\frac{λ_1}{μ_1} P_1\)
●\(P_0+P_1+P_2=1\)
から、
また、アベイラビリティ\(A\)は
\(P_0+P_1+P_2=1\)から
\(A=P_0+P_1=1-P_2\)と定義できます。
よって、
●\(P_0\)=\(\frac{μ_0 μ_1}{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
●\(P_1\)=\(\frac{λ_0 μ_1}{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
●\(P_2\)=\(\frac{λ_0 λ_1}{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
●\(A\)=\(\frac{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1 }{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
(2)もできました。
➃並列系のアベイラビリティA(t)を計算
問いを再掲
もう一度、問と微分方程式に戻ります。
(3) 初期条件を\(P_0(0)=1\),\(P_1(0)=P_2(0)=0\)とし、\(λ_i\)=\(μ_i\)=\(λ\)として、各状態の確率\(P_i(t)\)とアベイラビリティ\(A(t)\)を計算せよ。
●\(\displaystyle \frac{dP_0(t)}{dt} \)=―\(λ_0 P_0(t)\)+\(μ_0 P_1(t)\)
●\(\displaystyle \frac{dP_1(t)}{dt} \)=\(λ_0 P_0(t)\) ―\((λ_1+ μ_0)P_1(t)\)+\(μ_1 P_2(t)\)
●\(\displaystyle \frac{dP_2(t)}{dt} \)=\(λ_1 P_1(t)\) ―\(μ_1 P_2(t)\)
●初期条件:\(P_0 (0)=1\),\(P_1 (0)=0\),\(P_2 (0)=0\)
で、\(λ_i\)=\(μ_i\)=\(λ\)としてよいので、微分方程式は
●\(\displaystyle \frac{dP_0(t)}{dt} \)=―\(λ P_0(t)\)+\( λ P_1(t)\)
●\(\displaystyle \frac{dP_1(t)}{dt} \)=\(λ P_0(t)\) ―\((2λ)P_1(t)\)+\( λ P_2(t)\)
●\(\displaystyle \frac{dP_2(t)}{dt} \)=\(λ P_1(t)\) ―\(λ P_2(t)\)
ラプラス変換して解析
ラプラス変換すると微分方程式は、
●\(sP_0 -P_0(=1) \)=―\(λ P_0\)+\( λ P_1\)
●\(sP_1 \)=\(λ P_0\) ―\(2λP_1\)+\( λ P_2\)
●\(sP_2 \)=\(λ P_1\) ―\(λ P_2\)
3つの両辺を足すと
\(P_0 +P_1 +P_2 \)=\(\frac{1}{s}\)
●\(P_1\)=\(\frac{(s+λ)P_0 -1}{λ}\)
●\(P_2\)=\(\frac{λ}{s+λ}P_1\)
と変形して、
\(P_0 +P_1 +P_2 \)=\(\frac{1}{s}\)
に代入すると、\(P_0\)が求まります。
\(P_0\)を計算
\(P_0\)+\(\frac{(s+λ)P_0 -1}{λ}\)+\(\frac{λ}{s+λ} \frac{(s+λ)P_0 -1}{λ}\)=\(\frac{1}{s}\)
よって、
\(P_0\)=\(\frac{1}{s+3λ}(1+\frac{λ}{s+λ}+\frac{λ}{s})\)
ラプラス変換を逆に戻すポイントは
\(\frac{1}{(s+a)(s+b)}\)= \(\frac{A}{s+a}+\frac{B}{s+b}\)
と分母の積を分解することです。
よって、
\(P_0\)=\(\frac{1}{s+3λ}(1+\frac{λ}{s+λ}+\frac{λ}{s})\)
\(P_0\)=\(\frac{1}{6} \frac{1}{ s+3λ}\)+\(\frac{1}{2} \frac{1}{ s+λ}\)+\(\frac{1}{3} \frac{1}{ s }\)
\(P_1\)を計算
\(P_1\)=\(\frac{(s+λ)P_0 -1}{λ}\)
=\(\frac{(s+λ)P_0}{λ} -\frac{1}{λ}\)
=\(\frac{(s+λ)}{λ}\)(\(\frac{1}{6} \frac{1}{s+3λ}\)+\(\frac{1}{2} \frac{1}{ s+λ}\)+\(\frac{1}{3} \frac{1}{ s }))\) -\(\frac{1}{λ}\)
よって、
\(P_1\)=\(\frac{1}{3s}\)-\(\frac{1}{3(s+3λ)}\)
\(P_2\)を計算
\(P_2\)=\(\frac{λ}{s+λ}P_1\)
=\(\frac{λ}{s+λ}\)(\(\frac{1}{3s}\)-\(\frac{1}{3(s+3λ)}\))
\(P_2\)=\(\frac{1}{3s}\)-\(\frac{1}{2} \frac{1}{s+λ}\)+\(\frac{1}{6} \frac{1}{s+3λ}\)
まとめると、
●\(P_1\)=\(\frac{1}{3s}\)-\(\frac{1}{3(s+3λ)}\)
●\(P_2\)=\(\frac{1}{3s}\)-\(\frac{1}{2} \frac{1}{s+λ}\)+\(\frac{1}{6} \frac{1}{s+3λ}\)
確率\(R_i(t)\)と\(A(t)\)を解析
逆ラプラス変換すると
●\(P_0 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)+\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)+\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)
●\(P_1 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)-\(\frac{1}{3} e^{-3λt}\)
●\(P_2 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)-\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)+\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)
ちなみに、\(P_0 (t)\)+ \(P_1 (t)\)+ \(P_2 (t)\)=1となっていますね。
アベイラビリティA(t)は
\(P_0+P_1+P_2=1\)から
\(A=P_0+P_1=1-P_2\)と定義できます。
よって、アベイラビリティA(t)は
\(A(t)\)= \(P_0 (t)\)+ \(P_1 (t)\)
\(A(t)\)=\(\frac{2}{3}\)+\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)-\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)
(3)の答えをまとめると、
●\(P_0 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)+\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)+\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)
●\(P_1 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)-\(\frac{1}{3} e^{-3λt}\)
●\(P_2 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)-\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)+\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)
◎\(A(t)\)=\(\frac{2}{3}\)+\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)-\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)
できましたね。
グラフに描くとこんな感じになります。
確率は1/3で、アベイラビリティは2/3に収束しているのがよくわかりますね。
➃並列系のメリットをアベイラビリティから考える
問を再掲します。計算した確率とアベイラビリティの時刻tにおける極限値を考えます。
(4) (3)の結果をt⇒∞にしたときの各状態の確率\(P_i(t)\)とアベイラビリティ\(A(t)\)を計算せよ。
(5) 並列系にするメリットは何か?アベイラビリティの値から考えよ。
(4)は(2)の結果に一致する!
問(3)の極限値を計算すると、グラフからも明らかのように、
●\(P_0 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)+\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)+\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)⇒\(\frac{1}{3}\)
●\(P_1 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)-\(\frac{1}{3} e^{-3λt}\)⇒\(\frac{1}{3}\)
●\(P_2 (t)\)=\(\frac{1}{3}\)-\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)+\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)⇒\(\frac{1}{3}\)
◎\(A(t)\)=\(\frac{2}{3}\)+\(\frac{1}{2} e^{-λt}\)-\(\frac{1}{6} e^{-3λt}\)⇒\(\frac{2}{3}\)
にそれぞれ、収束します。
ちなみに、定常状態で計算した確率とアベイラビリティを再掲すると、
●\(P_0\)=\(\frac{μ_0 μ_1}{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
●\(P_1\)=\(\frac{λ_0 μ_1}{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
●\(P_2\)=\(\frac{λ_0 λ_1}{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
●\(A\)=\(\frac{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1 }{μ_0 μ_1+λ_0 μ_1+λ_0 λ_1}\)
で、\(λ_i\)=\(μ_i\)=\(λ\)と代入すると、
●\(P_0\)=\(\frac{λ^2}{λ^2+λ^2+λ^2}\)=\(\frac{1}{3}\)
●\(P_1\)=\(\frac{1}{3}\)
●\(P_2\)=\(\frac{1}{3}\)
●\(A\)=\(\frac{2}{3}\)
となり、
(5)の並列系のメリットとは?
アベイラビリティは\(\frac{2}{3}\)に収束しました。
もし、並列系でなく、故障率λ=修理率μなら、アベイラビリティはいくらになりますか?
単純に\(\frac{1}{2}\)ですよね。
これ、結構大事な考察結果です。並列系するメリットがアベイラビリティからもわかるわけです。
まとめ
「並列系のアベイラビリティがよくわかる」を解説しました。
- ①アベイラビリティ
- ➁並列系のアベイラビリティA(t)を導出する例題
- ➂並列系のアベイラビリティA(t)を導出
- ➃並列系のアベイラビリティA(∞)を計算
- ➄並列系のメリットをアベイラビリティから考える
Warning: count(): Parameter must be an array or an object that implements Countable in /home/qcplanets/qcplanets.com/public_html/wp-content/themes/m_theme/sns.php on line 119