日立化成の品質不正を学ぶ
「日立化成からなぜ、品質不正で学ぶケースなのか?」と疑問に思いませんか?
こういう疑問に答えます。
本記事のテーマ
数年前に発覚した事例です。最近の品質不正が発覚する企業も似たようなパターンです。
- ①品質マインド
- ➁品質不正の内容・被害
- ➂発覚した経緯
- ➃品質不正分析で見逃がしてはいけない情報
- ➄品質不正に至った真因
- ⑥その後の結末
- ⑦とるべき対応策
経営課題として全社的な問題です。
経営×品質の応用問題です。
品質不正をした相手への批判ではなく、表に出ない真因を考え抜く力を身に着けるためにブログ記事として解説していきます。
①品質マインド
●関連記事で解説しています。まず、こちらを読んでください。
【必読】品質不正を考える正しいマインドがわかる【褒めて応援すべし!】 品質不正の報道が出たら、その相手を叩こうとしていませんか?本記事では品質不正に対する正しいマインドを解説します。厳しい競争にさらされつつ、挑戦する社会では、失敗もつきものですよ。失敗をある程度許容して、反省して成功につなげやすいマインドが 必須です。 |
●大事な3つのマインドを再掲します。
- 品質不正を打ち明けた企業・組織を褒めよう!
- 対岸の火事ではない!
- 「失敗は成功のもと」につなげよう!
●悪い膿を出して、再生・復活する企業・組織を応援しましょう。もちろん、不正した相手の誠意が前提です。
➁品質不正の内容・被害
情報元
●企業サイト(当社製品における不適切な検査等に関する特別調査委員会の報告書について)
自社のサイトにちゃんと掲載している企業は立派です!すばらしい!そして450ページも報告書があります。内容も網羅されています。
さすがに450ページも読む時間がないでしょうから、本記事でポイントを絞ってしっかり真因を分析していきましょう。
品質不正の内容
●簡潔にまとめます。
・産業用鉛蓄電池の一部の製品で、顧客と決めた試験方法と異なる試験採用を採用、試験成績書に実測値と異なるデータを記載し、顧客に交付した。
・検査していないにもかかわらず、検査したかのように検査結果を捏造。
・顧客から工場立会検査や社内定期検査では、サンプルを無作為に抽出しないといけないが、あらかじめ、良い結果が出るサンプルを確保して検査実施した。
●ほとんど、品質保証部門の検査による改ざん、隠ぺいを原因としていますが、
なぜ、品質保証部門の検査不正に至ったか?は会社全体で見ていかないと、真因を見逃してしまいます!
決して、品質部門の人をかばうわけでないし、QCプラネッツも品質の仕事をしているので、逃げ腰ではありません。大事なのは、経営課題から見ていかないと、品質不正の真因にたどり着けません。
被害状況
特に顧客からのクレーム、実被害はないが、納入製品の無料交換等で多額の費用が発生しているはず。
ANNUAL REPORT 2019を読むと、収益はちょっと下がったけど、品質不正が原因ではなく、「スマートフォン事業偏重型からの脱却の遅れや原材料高騰の対応が遅れたため」と書いています。
ROICも7%~10%と高く、高収益企業ですよ。
って、顧客なら思うはず。
なぜなら、
●ANNUAL REPORT2019⇒どんどん攻めの経営、競争力が高い!
●品質不正報告書⇒顧客からのコスト・納期を鵜呑みし、十分な検査環境が無いから不正に走った
ちょっと、違和感を感じます。
➂発覚した経緯
明記した記事はありませんが、社内からの報で公にせざるを得ない状況だったのでしょう。
➃品質不正分析で見逃がしてはいけない情報
企業の内外分析から、不正に入る真因を紐解いていきます。
そのために、次の3つの観点で分析しましょう。ここは経営分析、MBAの領域です。品質不正でも活用します!
- 外部環境の観点
- 組織の状況
- 担当レベルの動き
もう一度、不正の内容をみましょう。QCプラネッツの「ツッコミ」を入れると、その真因が見えそうです。
⇒過去から不正が継続しており、是正できないのはなぜか?
・産業用鉛蓄電池の一部の製品で、顧客と決めた試験方法と異なる試験採用を採用、試験成績書に実測値と異なるデータを記載し、顧客に交付した。
⇒なぜ、勝手に変えてしまうのか?変えないとダメのか?
・検査していないにもかかわらず、検査したかのように検査結果を捏造。
⇒なぜ、検査したと嘘をつくのか? 嘘をつかないといけない理由は何か?
・顧客から工場立会検査や社内定期検査では、サンプルを無作為に抽出しないといけないが、あらかじめ、良い結果が出るサンプルを確保して検査実施した。
⇒なぜ、勝手に変えてしまうのか?変えないとダメのか?
ツッコミの記述と、フレームワーク「QCD」のQ,C,Dの観点から想像すると、
と、ピンと来ましたか?
外部環境の観点
●上の記述から、日立化成は「収益優先型」で、トップからキツイ圧力を内部組織にかけていたのではないかと推測できます。
他社の製品攻勢に対抗し、他社より早い納期と安さを売りに、厳しい競争でも勝ち続けるために、内部への無理な圧力をかけていたのではないかと推測できます。
無理な、納期、コスト要求が、安全・品質をおろそかにせざるを得ない状況を生み出したのではないでしょうか?
無理な、納期・コスト要求は、結局、品質保証部門にしわ寄せした結果に見えます。
また、顧客は自動車メーカーなどの厳しい顧客で、顧客対応のハードルの高さが身に染みており、事実を正確に顧客に伝えられないのも理由として考えられます。
●ANNUAL REPORT2019⇒どんどん攻めの経営、競争力が高い!
●品質不正報告書⇒顧客からのコスト・納期を鵜呑みし、十分な検査環境が無いから不正に走った
このギャップがある理由がわかる気がしますね。
組織の状況
上の事実から組織がどんな状況だったかは、以下が類推できます。
- 経営陣の強い支配,Noと言わせない風土
- 厳しい圧力が無関心、組織機能の独立分離化
- 忌憚なく発言できない風土が、不正行為の発生および判断対処の遅れの原因
- みんな(不正)やっているから、自分もやるという思考停止状態
- 顧客の実害がないから、大丈夫じゃん!
●報告書には、品質不正を起こした他社のような「経営陣の強い支配,Noと言わせない風土」や「厳しい圧力が無関心、組織機能の独立分離化」は明記していませんが、「現場・課長クラスで情報が止まっており、部長クラス以上は何も知らされていない」という記述から、上への報告のしづらさが想像できます。
「●ANNUAL REPORT2019⇒どんどん攻めの経営、競争力が高い!」
「●品質不正報告書⇒顧客からのコスト・納期を鵜呑みし、十分な検査環境が無いから不正に走った」
上は、知らない(知らないふり)で株主へのアピールと
現場の足元のギャップがあるからです。
担当レベルの動き
報告書では、
- 人件費削減による人手不足を背景に不適切行為
- 人員不足により検査・試験等に十分な時間がない、検査・試験結果を捏造・改ざん
- 生産量の数%以下程度分の試験環境しかない
- 検査設備がなく、試験関係に予算がつかなかった
- 全部検査するとなると建屋から改善しないとできない
- 場所・設備・人、リードタイム・コストが足りない
この状況で、全数検査を適正にすべて、納期内に終えることはできますか?
また、その一方で、
- 電池容量は過信であるが、大丈夫と思っている、物は大丈夫と自信がある
- 顧客には実被害が出ていない、迷惑かけていないと聞いていた
「まあ、ちゃんとやっていないけど、実害が出てないから大丈夫だろう」という働き方になりますよね。また、上司もその環境から昇進しているし、周囲もやっていたら、不正行為自体が通常の正しい行為と思うようになりますよ。
技術者倫理は個人として高いけど、会社は会社! 現場は現場!と思考が切り離されていたのではないでしょうか?
組織の独立性、上に報告しても意味がないなら、当然、自分の身を守るように、隠ぺい・改ざんしますよね。
確かに、個人でも不正する人はいますが、それなら、その人を解雇すればよいだけ。
不正に走らざるを得ない状況や圧力がかかっていることの方が問題
●あきらかに性能未達なのに、明日までに検査終了して出荷しろって、経営陣から指示があったら、品質保証部門の人は「No」って言えますか?
なんとか合格にもちこむのが人間ですよ。検査結果が正しいとして経営陣やお偉いさんとガチで戦う検査員がいますか?ただの担当レベルなんですよ。「上の指示でやった」でおさめるはず。だから不正が起こるんですよ
無理な仕様⇒無理な設計⇒無理な製造が、その次工程の検査にしわ寄せしたから、
品質保証が不正した結果になったわけです。これは事実として正しいけど、真因は、品質保証だけが不正したわけではないことを理解しないと、また同じ不正をやってしまう恐れがあります。
➄品質不正に至った真因
QCDバランスはどう崩れたか?
不正が起きた原因は分析できました。QCプラネッツでは、分析結果をさらに、「QCD」を使って整理します。
この悪意的な圧がかかるのは、採算重視、コストカット、ムリな納期要求(早く作って販売しないといけない商品があった)が背景になると考えられます。
C「コスト、収益」か
D「納期、時間、手間」か
のバランスが崩れている場合がほとんど。
日立化成の場合はどうでしょうか?
推論を再掲しますが、
他社の製品攻勢に対抗し、他社より早い納期と安さを売りに、厳しい競争にさらされていたのではないか?
無理な、納期、コスト要求が、安全・品質をおろそかにせざるを得ない状況を生み出したのではないか?
C「コスト、収益」の観点
Cにおいては、「何としてでも売れ!」と上からの指示・命令があったのでしょう。
無理な仕様⇒無理な設計⇒無理な製造が、その次工程の検査にしわ寄せしたから、
品質保証が不正した結果になったわけです。これは事実として正しいけど、真因は、品質保証だけが不正したわけではないことを理解しないと、また同じ不正をやってしまう恐れがあります。
D「納期、時間、手間」の観点
無理な仕様⇒無理な設計⇒無理な製造が、その次工程の検査にしわ寄せしたから、
品質保証が不正した結果になったわけです。これは事実として正しいけど、真因は、品質保証だけが不正したわけではないことを理解しないと、また同じ不正をやってしまう恐れがあります。
●あきらかに性能未達なのに、明日までに検査終了して出荷しろって、経営陣から指示があったら、品質保証部門の人は「No」って言えますか?
ここのQCD分析は、「東洋ゴム」のケースと同じ記述です。全く同じ原因とわかりますね。
⑥その後の結末
安全性や性能に問題はないとして、回収や出荷停止はしていません。反省はしたんでしょうけど。
●新たに29製品で検査不正 2400社に拡大(2018/11/2)
日立グループから切り離されましたが、昭和電工グループに入っています。
日立化成から学べる教訓
日立化成の批判ではなく、日立化成から学べる教訓を理解して活かしましょう。
●ただし、不正に走った真因分析は明確でとてもよい。
●でも、経営・組織の膿が出し切れていない感が残るので「結局変わらないまま、再発の懸念が残ってしまう」
不正再発はQCプラネッツの余計な杞憂で済めばよいですが、今後も気になります。
品質不正から、これだけ経営課題を解くヒントが読み取れます!
●次に、品質不正が発生したら、どんな対応策をとるべきでしょうか?それを次に解説します。
⑦とるべき対応策
●何社も品質不正の分析をすると、取るべき対策は1つに抽象化できます。
組織の経営そのものを是正・修正しないと再発する。
●対応策については、関連記事で詳しく解説しました。批判で終わらず、建設的な改善提案と成功へつなげましょう!
【必読】品質不正からの名誉挽回方法がわかる 品質不正に陥った組織をどうやって立て直すかわかりますか?本記事では、批判で終わる品質不正の記事とは違って、信頼回復・改革に何が組織には必要なのかをわかりやすく解説します。誰かに任せるのではなく、自分事として自らリーダーシップをとって良い組織に生き返らせましょう!社会は温かく見守るべきです。 |
がんばりましょう!
まとめ
「日立化成の品質不正を学ぶ」を解説しました。
- ①品質マインド
- ➁品質不正の内容・被害
- ➂発覚した経緯
- ➃品質不正分析で見逃がしてはいけない情報
- ➄品質不正に至った真因
- ⑥その後の結末
- ⑦とるべき対応策
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