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品質工学,動特性の理想直線は原点通らなくてOKな理由がわかる

ロバストパラメータ設計

「品質工学の動特性がよくわからない」などと困っていませんか?

こういう疑問に答えます。

本記事のテーマ

品質工学,動特性の理想直線は原点通らなくてOKな理由がわかる

おさえておきたいポイント

  • ①理想直線は原点を通らなくてもいい回帰直線
  • ➁理想直線(回帰直線)の成立条件
  • ➂原点を通るようにデータ値を調整したら成り立つ
  • ➃だったら最初から回帰直線でいいじゃん
品質工学
ロバストパラメータ設計
タグチメソッド
手法に溺れるな!
数式と理論で理解しよう!

品質工学、ロバストパラメータ設計、タグチメソッド
結局わからない!
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本記事の結論
品質工学の動特性=回帰分析
理想直線は原点を通す必要はない!
\(y=βx+α\) (\(α\)≠0)とすべき
わざわざ品質工学特有な式とする必要はない!

品質工学の独自性を出したいんでしょうけど、むしろ品質工学を理解しにくくしている!

品質工学の動特性は回帰分析と同じですよ! 回帰分析の公式をそのまま使えばいいんですよ。

①理想直線は原点を通らなくてもいい回帰直線

品質工学の教科書によく書いていること

品質工学の教科書で動特性の導入を見ると、ほとんど以下の流れで書いています。

  1. データの構造式 \(y_j\)=\(\hat{y_j}\)+(\( y_j+\hat{y_j}\))
  2. 理想直線 \(\hat{y_j}=βx_j\)
  3. 誤差成分 \(S_e\)=\(\sum_{i=1}^{k}( y_j-\hat{y_j})^2\)
  4. 理想直線導出 \(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial β} \)=0から
    \(β\)=\(\frac{\sum_{j=1}^{k} x_j y_j}{\sum_{j=1}^{k} x_j^2}\)=\(\frac{L}{r}\)
  5. 2乗和 \(S\)=\(S_β\)+\(S_e\)

とあり、

理想直線は原点を通る直線が前提になっています。

単回帰直線の場合

でも単回帰直線の導出を確認すると、品質工学の動特性とほぼ同じです。

  1. データの構造式 \(y_j\)=\(\hat{y_j}\)+(\( y_j+\hat{y_j}\))
    (注:\(\bar{y}\)項がありますが、無くても2乗和の分解は成立します。)
  2. 理想直線 \(\hat{y_j}=βx_j+α\)
  3. 誤差成分 \(S_e\)=\(\sum_{i=1}^{k}( y_j-\hat{y_j})^2\)
  4. 理想直線導出
    \(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial α} \)=0,\(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial β} \)=0
    から
    \(β\)=\(\frac{S_{xy}}{S_{xx}}\)
  5. 2乗和 \(S\)=\(S_R\)+\(S_e\)

表で比較すると、同じ解法ですよね!

品質工学、動特性 単回帰分析
データの構造式 \(y_j\)=\(\hat{y_j}\)+(\( y_j+\hat{y_j}\)) \(y_j\)=\(\hat{y_j}\)+(\( y_j+\hat{y_j}\))
直線 \(\hat{y_j}=βx_j\) \(\hat{y_j}=βx_j+α\)
誤差成分 \(S_e\)=\(\sum_{i=1}^{k}( y_j-\hat{y_j})^2\) \(S_e\)=\(\sum_{i=1}^{k}( y_j-\hat{y_j})^2\)
直線導出 \(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial β} \)=0から
\(β\)=\(\frac{\sum_{j=1}^{k} x_j y_j}{\sum_{j=1}^{k} x_j^2}\)
\(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial α} \)=0,\(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial β} \)=0
から
\(β\)=\(\frac{S_{xy}}{S_{xx}}\)=\(\frac{\sum_{j=1}^{k} (x_j-\bar{x})(y_j-\bar{y})}{\sum_{j=1}^{k} (x_j-\bar{x})^2}\)
2乗和 \(S\)=\(S_β\)+\(S_e\) \(S\)=\(S_R\)+\(S_e\)

品質工学の動特性と、単回帰分析の解法を比較して異なる点は、

y切片の有無の違いだけ。

なので、

理想直線と回帰直線は同じでいいし、
下手に原点通る直線と思い込むと、2乗和の分解で
\(S\)≠\(S_β\)+\(S_e\)
なのに、
\(S\)=\(S_β\)+\(S_e\)
と勘違いしたまま分析する方がよっぽどマズイ!

まず、伝えたいのは、

理想直線や回帰直線ができるのは、
2乗和が分解できるから
(中間積和項がすべて0になるから)
\(S\)=\(S_β\)+\(S_e\)
直線より、2乗和の分解が成立するかどうかを先にチェックすべき!

➁理想直線(回帰直線)の成立条件

ちゃんと、理想直線を導出しましょう。単回帰直線と同じでいいことがわかります。

導出フロー

流れは、

  1. データの構造式 \(y_j\)=\(\hat{y_j}\)+(\( y_j+\hat{y_j}\))
  2. 理想直線 \(\hat{y_j}=βx_j+α\)
  3. 誤差成分 \(S_e\)=\(\sum_{i=1}^{k}( y_j-\hat{y_j})^2\)
  4. 理想直線導出
    \(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial α} \)=0,\(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial β} \)=0
    から
    定数\(α、β\)を導出
  5. 2乗和 \(S\)=\(S_R\)+\(S_e\)

理想直線を導出

データの構造式
\(y_j\)=\(\hat{y_j}\)+(\( y_j+\hat{y_j}\))
から(右辺)第2項の誤差成分を取り出します。

なお、\(\hat{y_j}\)は理想直線に乗るので、
\(\hat{y_j}\)=\(βx_j +α\) (\(α\)≠0または0)
が成立します。

誤差成分 \(S_e\)=\(\sum_{i=1}^{k}( y_j-\hat{y_j})^2\)
= \(S_e\)=\(\sum_{i=1}^{k}( y_j-(βx_j +α))^2\)

成立条件は、誤差成分が最小になる条件です。というか、

とする時点で、回帰分析ですよね

条件式
●(i) \(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial α} \)=0
●(ii) \(\displaystyle \frac{\partial S_e}{\partial β} \)=0
を作ります。

展開すると、
●(i) \(\sum_{j=1}^{k}x_j y_j\)= \(β\)\(\sum_{j=1}^{k}x_j^2\)+ \(α\)\(\sum_{j=1}^{k}x_j \)
●(ii) \(\sum_{j=1}^{k} y_j\)=\(β\)\(\sum_{j=1}^{k}x_j\)+\(kα\)
となります。これって、単回帰分析の教科書と同じ導出フローです。それを品質工学の動特性の理想直線としているだけです。

計算すると
●\(α\)=\(\bar{y}-β\bar{x}\) (\(α\)の式は複雑なのでシンプルにしています。)
●\(β\)=\(\frac{k \sum_{j=1}^{k}x_j y_j -\sum_{j=1}^{k}x_j \sum_{j=1}^{k}y_j }{\sum_{j=1}^{k}x_j ^2 –(\sum_{j=1}^{k}x_j)^2}\)
=…=\(\frac{\sum_{j=1}^{k}(x_j -\bar{x})(y_j -\bar{y})}{\sum_{j=1}^{k}(x_j – \bar{x})-^2}\)
となり、これは、
\(β\)=\(\frac{S_{xy}}{S_{xx}}\)
としてもOKですよね。

ちゃんと計算すると、単回帰分析と同じ導出とわかりました。

なお、y切片が0の場合は、\(β\)の式の中には、\(\bar{x},\bar{y}\)はありませんが、
y切片が0でない場合は、\(β\)の式の中には、\(\bar{x},\bar{y}\)はあります。
これは数学的に正しいので問題ないです。

【最重要!】2乗和の分解が成立しているかを確認

関連記事で紹介しますが、2乗和の分解が成立しています。これは、データが繰返しが有る場合、誤差因子が複数ある場合でも成立しています。

誤差因子が1つの場合

品質工学、動特性、誤差因子1つの変動の分解がわかる
品質工学、動特性、誤差因子1つの場合を使いこなせますか? 本記事では、 動特性で誤差因子が1つの場合において、データの構造式、変動の分解、公式を丁寧に導出し、実データを使って実際に公式が成り立つことを確認できます。教科書では端折りがちな大事な導出部分をしっかり理解しましょう。

ポイントは

●データの構造式:
\(y_{ij}\)=\(\hat{y_j}\)+\((\hat{y_{ij}}-\hat{y_j})+(y_{ij}-\hat{y_{ij}})\)
●動特性の理想直線:
\(\hat{y_j}=-0.15+3.05x_j\)
●2乗和の分解:
\(S\)=\(S_β\)+\(S_{N×β}\)+\(S_e\)
1250=996.05+196.45+57.5
となり、y切片が0でない理想直線で、2乗和の分解が成立していますね!
逆にy切片を無理に0とする理想直線とすると、2乗和の分解が不成立になるので要注意です。

誤差因子が1つで繰返しがある場合

品質工学、動特性、誤差因子1つで繰返しありの分解がわかる
品質工学、動特性、誤差因子1つの場合を使いこなせますか? 本記事では、 動特性で誤差因子が1つで繰返しがあるの場合において、データの構造式、変動の分解、公式を丁寧に導出し、実データを使って実際に公式が成り立つことを確認できます。教科書では端折りがちな大事な導出部分をしっかり理解しましょう。

誤差因子が2つの場合

品質工学、動特性、誤差因子2つの分解がわかる
品質工学、動特性、誤差因子2つの場合を使いこなせますか? 本記事では、 動特性で誤差因子が2つの場合において、データの構造式、変動の分解、公式を丁寧に導出し、実データを使って実際に公式が成り立つことを確認できます。教科書では端折りがちな大事な導出部分をしっかり理解しましょう。

原点通る条件より2乗和の分解ができる条件で決まる

データの構造式を使えるためには、

2乗和の分解ができること
つまり
●\((x+y+z+w)^2\)=\(x^2+y^2+z^2+w^2\)
●\(xy=xz=xw=yz=yw=zw\)=0
という関係式が成り立つこと

まず、この条件が最初にきて、この条件を満たす式の1つに理想直線や回帰直線を当てはめることになります。

教科書は、,mark>先に原点を通る理想直線から話が進むため、そのまま考えずに分散分析すると実は、2乗和がうまく分解しない(\(xy,xz,xw,yz,yw,zw\)≠0)条件で分析するリスクがあります。

➂原点を通るようにデータ値を調整したら成り立つ

でも、教科書のとおり、理想直線は原点を通る直線にしたいならどうすればよいかを1つ提案します。

どうしても原点を通る理想直線したいなら

簡単なことで、

理想直線(回帰直線)の
y切片の値だけ、データyから引けばいい
y⇒y-a (a:y切片)に変換すればOK

というひと手間入れればOKですが、

わざわざ先に回帰直線を計算してからyの値をy切片分引くのは面倒ですよね。
品質工学は使い勝手の良さを売りに拡大していきましたが、その流れと逆ですよね。

【注意!】繰返しの有るデータや誤差因子が複数ある場合

さらに、注意が必要なのは、関連記事のとおり、繰返しがある場合や誤差因子が複数ある場合は多くの理想直線(回帰直線)が出て来ますが、全直線は原点を通りません。

誤差因子が1つで繰返しがある場合

●理想直線は
●\(\hat{y_1}\)の回帰直線:\(\hat{y_1}\)=\(α_1\)+\(β_1\)\(x_j\)
●\(\hat{y_2}\)の回帰直線:\(\hat{y_2}\)=\(α_2\)+\(β_2\)\(x_j\)
●\(\hat{y}\)の回帰直線:\(\hat{y}\)=\(α\)+\(β\)\(x_j\)
ここで、
・\(β\)=\(\frac{1}{2}(β_1+β_2)\)
・\(α\)=\(\frac{1}{2}(α_1+α_2)\)
です。ただし、原点を通る調整ができるのは、\(α\)によるものだけで、
y⇒y-\(α\)と調整しても、\(α_1\),\(α_2\)は0になるとは限りません。

結局、理想直線のすべては原点を通るとは限らない。

誤差因子が2つの場合

●理想直線は
●\(\hat{y_{ij}}\)の回帰直線:\(\hat{y_{ij}}\)=\(β_i x_j+α_i\)
●\(\hat{y_{jl}}\)の回帰直線:\(\hat{y_{jl}}\)=\(β_l x_j+α_l\) ここで、
・\(β\)=\(β_i\)の平均、または、\(β_l\)
・\(α\)=\(α_i\)の平均、または、\(α_l\)
です。ただし、原点を通る調整ができるのは、\(α\)によるものだけで、
y⇒y-\(α\)と調整しても、\(α_i\),\(α_l\)は0になるとは限りません。

結局、理想直線のすべては原点を通るとは限らない。

➃だったら最初から回帰直線でいいじゃん

結論は、

だったら最初から回帰直線でいいじゃん

難しい品質工学を簡単に解く気遣いが逆効果

品質工学を研究してわかるのは、

実験計画法と回帰分析がわかっていないと品質工学は解けない。
でも、多くの人に使ってもらうためにシンプルな式で使い勝手の良さを上げたい
という気持ちはとても理解できます。

それが、有効除数rや線形式Lを定義したり、理想直線をy=βxという簡単な式を使うようにしているわけです。

でも実験計画法と回帰分析と違う定義式が品質工学で出て来ると、互いの違いがわかりにくくなり、品質工学で何を解いているのかわからなくなります。QCプラネッツも長年ここで悩んでいたし、それが実験計画法や品質工学、タグチメソッドを遠ざけていた要因でもあります。

定義式から丁寧に導出して勉強しよう

データの構造式から2乗和の分解を丁寧に計算してわかったことは、

品質工学は実験計画法と回帰分析を合わせたものでいいし、動特性の理想直線は回帰直線でOKです!

としっかり計算して確認することで、品質工学と実験計画法・回帰分析との関連もしっかり理解できますね!

品質工学の教科書を鵜呑みして、解法を真似ても
本質は理解できません。
本質が理解できたら、守るべき条件(2乗和の分解)をおさえて
使いやすい式や分析を自分になりにアレンジしたらよいと考えます。

まとめ

「品質工学,動特性の理想直線は原点通らなくてOKな理由がわかる」を解説しました。

  • ①理想直線は原点を通らなくてもいい回帰直線
  • ➁理想直線(回帰直線)の成立条件
  • ➂原点を通るようにデータ値を調整したら成り立つ
  • ➃だったら最初から回帰直線でいいじゃん


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